路地の風景は少し変わっていた。 もっと雑多で、細い裏路地には意を決して、少しワクワク感を伴って踏み入るような感覚だったのが、路地の入り(はいり)口の両脇は小ぎれいなファッション・ビルと、クリーム色のくすんだ建物は黒く塗られ、やや傷んだアスファルトの通路の一部には明るい色の石畳のような装飾が入り込んでいた。 通路の先に残る古い風景とタングステン色の手前の真新しさの対照に、「ファッション・ビル」ってたぶん和製英語なんだろうなと余計な気が巡る。
霧雨と小雨の中間のような雨。 昨夜は雪で、残る寒さ故かちょっと疲労感。 横断歩道を渡りながらふと横を見ると道路も建物も空もグレーで、上の方が霞んで空に溶けているビル群のモノ・トーン加減が心地よく。 そういえばと、のどが渇いているのに気づき、いつだったかネット検索で見た喫茶店に行ってみようと思い立った。 初めての訪問。 大通りを外れて空が狭くなり更に濃いグレーとなった通りにオレンジ色の看板を見つけた。 看板には「珈琲だけの店」と書かれていた。 お店の戸を開けると快活な女性店員が、コーヒーしかないこと、禁煙であること、現金しか扱っていないことを確認してきて、これにパスすると入店。 席の案内があり、荷物や上着をかけるフックやカウンターのイスが横方向にスライドする事などの簡潔で丁寧な説明があった。 メニューを見ていると暫くしてマスターの説明があり、一番上に書かれたブレンドを勧めてきた。 さて、でも何か特徴的なものって... あ、これ、何だ「琥珀の女王」って? その左側に書かれたカタカナを見て「ブラン・エ・ノワールください」と。 マスターは、これは甘いがいいのか? 大丈夫なのか? と念を押す。 更に、苦いのはこっちだとメニューの何か所かを指さす。 「甘くていいです」と返事。 暫くするとシャンパン・グラスに注がれた冷たいコーヒーが出てきて、店員さんがそーっと生クリームを注ぐ。 ちょっと面白い。 で、その動作を予想できなかったこともあり、写真を撮るのを忘れて見入ってしまった。 完成品を暫く眺めて写真を撮ってからゆっくりひと口、ふた口。 すごく甘い。 そしてまったりと流れ込んできて香りが広がるコーヒーに疲れが抜けて行く感じが。 またいつか、Lupinもいつか。