2020-05-16

Irish Spring


   Salemという街に着いた翌夕だったか翌々夕だったか、寮のアシスタント役の学生が「到着した学生が、日用品がなくて困っているらしい」と、夕方暗くなった頃に急遽ドラッグ・ストア「Payless Drugs」まで道案内をしてくれたのだった。 1990年3月の20日か21日のこと。 暗くなってから街を歩くというのは、おそらく今よりも危険度は高い。 だが逆に、99%以上が白人だという街の住人にしてみれば、揃って髪の毛と目の黒い約60名の集団が列をなしてぞろぞろ歩いている光景は、不気味で、危険を感じるような光景なのかもしれない。 連れ立った寮のアシスタントの学生には妙な緊張があったと思う。

   そうして、とりあえず必要な日用品を手にできた。 Payless Drugs、今はRite Aidというお店になっている。 その時に選んだ石鹸が、この「Irish Spring」だった。 以後、アメリカ滞在中はこればかり使っていた。 最近は固形の石鹸なんて売ってないんじゃないかと思うがどうなんだろう。 このIrish Springも、おそらく10年くらい前か、それ以前に米軍横田基地のPXで手にしたものだと思う。 なんだかんだ、随分と長いあいだ親しんでいるマーブル・グリーンの色と香り。

   あれから30年以上が経ち、街のなかに黒い髪・黒い目のアジア人がちらほらいる風景は、だいぶ日常的な風景になっていることだろう。
   32年目、32期生の今年、この春に現地へ到着した学生は、新型肺炎のため大学が閉鎖になり帰国を余儀なくされた。 長年このプログラムに携わってきた関係者は、「必ず彼らを呼びもどす。 彼らの機会を無にしてはいけない。」と力強く語っていた。