2013-05-13

季節もの


   バーガンディー・チェリー。 毎年これを楽しみにしている。 アメリカン・ブラック・チェリーの味と思われるアイスクリームで、どことなく味の基を同じくしているだろうドクター・ペパーを思わせる風味を持っている。
   1990年頃の話だが、4月にはオレゴン州の幹線道路の道ばたに、大きな横長の紙や布に "CHERRY!"とペンキで書いて掲げたスタンドが点在するようになる。 路肩にクルマを停めるのが難儀な感じがあって買ったことはないのだが、春も終わりかけたある日、同じ寮の住人が「道ばたで買ったんだよ」と、チェリーを差し出した。 果汁が漏れるほど熟した大きな粒を口に入れると、陽光を感じる甘みが広がった。
   この街は、路線バスの会社名が "CHERRIOT"というくらいだ、サクランボは身近なのだろう。

   そういえば石川好(いしかわ よしみ)氏の、1960年代当時のカリフォルニアでの日系移民の世界を舞台にした著書「ストロベリー・ロード」には、イチゴを売るスタンドが道ばたに点々と並ぶ様子も描写されている。
   1990年頃に書かれたこの著書にあるイチゴ畑の風景は - 「今は消えてしまったあのイチゴ畑で、僕は他の日本人移民達と4年間を過ごした。 ひと粒の種を蒔き、水をやる。 すると数日後には、地表を押し上げて芽を出す作物。 生育したイチゴが、畑一面にふりまく、甘く、とろけるような強い香り。 強い陽光の下で、血走った目つきでそれを摘んでゆく、メキシコ人労働者の褐色の肉体...」 という感じだったろうか。 多くの日系人が携わるカリフォルニアのイチゴ農家の努力と競争、豊富な陽光、メキシコに近い土地柄からか多様な人種と、それぞれが作用し力強さを思う光景だ。

   それからするとオレゴンは、カリフォルニアからは列車でほぼ1日を費やして北上した位置でもあり、内陸の砂漠地帯でもなければ陽光は少し柔らかい。 地に深く根を張り大きく葉を広げた木でゆったりと育ったサクランボは、何ともおおらかな印象を誘う。

   そうした春を思わせる味が「バーガンディー・チェリー」。 「今年の分はもう工場で品切れになってるので、このあと入荷するかどうか...」とのことだった。 今日のが今年最後かも。