数年前まで「華や」という喫茶店があった。 このシャッターの奥の右手に階段があって、地下にこぢんまりとした、暗めの照明のなかに低めのテーブル席が9卓ほどだったろうか、並ぶ小さな喫茶店だった。 午後に立ち寄ると、客は常連さんと思しき人たちが3分の1から半分ほど、よくある黒い合成皮の、ソファーと呼ぶにはその2歩手前ほどの座席に一体化して座り、注文したコーヒーはソーサーがテーブルにめり込みそうなほどの長居の様子。 常連でなくとも小1時間も本を読むにはちょうどよい空間。 こちらは昼の腹ごしらえのみなので、チーズ・トーストに軽く塩を振り、グアテマラかブラジルにクリームと砂糖をたっぷり入れ、小さな厨房で動くマスターの、ぼやけて視界に入るのに促されるように食べ進める。 グアテマラ、ブラジル、響きが美味しそう。 味の違いは覚えてないし、そもそも味の記憶がない。 けれども、「サイフォン」でフラスコの球のなかに心地よく吹き上がったそのコーヒーは、スッキリした飲み口だったように記憶している。
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