2023-04-17

マット・ケバブ建物解体

   「マット・ケバブ」が解体されていた。 計画発表から50年ほど経っていると言われる福生駅北側の道路拡張。 周辺では新たに道路が作られ、そこと接続して幹線的な利用を目指しているようには見えるのだけど、50年も経っていると街も人もニーズが変わっていそうにも見える。 この北口の一角は、古い飲み屋が連なる路地など太平洋戦争後の「基地の町」模様を微かに匂わす風がある。 パブやスナックの他にライブ・ハウスの看板も見られるのだけど、既に閉店し、代わりに中東系と思しき顔立ちが多く見られる小さなレストランや簡易な飲み屋が目につく。 工事の様子からは、街が変化してゆくというよりも、過去の空気を薄めたい思いも働いていそうにも映る。
   そうした「開発の波」に遭ったのか、マット・ケバブの建物は解体。 近所の人が言うには「移転しようにも『箱』がねぇんだ」と。 店主のマット氏(本名:ファラ・ソイ)は努力家のようで、この地域を紹介するウェブ・サイト「限りなくアメリカに近い福生」に紹介されている。 それによると身一つで今のお店を持つに至っている。 そしてこのお店の顔となっている絵は、その昔にリリー・フランキー氏が描いたものだそう。 この絵は地元の人が脈々と残してきたといわれ、ファンも多く保存運動が行われているとも聞くが、さて、どこかに保存されるのが良いのか、厳然と流れてゆく時代の流れを受け入れるかのようにいよいよ消滅してしまうのがこの街らしいのか、考えるほど思いは複雑に。 「福生」で時を過ごしたリリー・フランキーの絵だからこその貴重さを思い、まずは大きな壁画の制作を許し、マット氏もこの街に来た理由は ---「福生は外国人と日本人がいい感じに暮らしているから」と、そうした「福生」の土壌、その懐の特異さ貴重さを思う。
   「街の記憶」は案ずる輩の思いを置き去りに意外と刹那的。 とりわけ「基地の町」福生は、そこに踏み入る人にとっては思い入れが強い分、そして景色が刹那的であるほどに思いは やる瀬なく一層つよく染み、「アメリカへの距離」という空虚さに隔てられて遠く逍遥する個々の心情、これに程よく距離を保ちながら、ただザワつく胸騒ぎに居場所を許す人懐こさを思う。
   アメリカ 遠い...。

   出典:ウェブ・サイト「限りなくアメリカに近い福生」