前々から考えてはいたものの、これは何かと時間がかかるので結果的に敬遠となっていた、フィルムでの撮影をようやく。 何を撮るというでもなく、フィルム・カメラ未経験世代にフィルムの色を体験してもらおうかと思い、その前に長いこと防湿庫に鎮座していたカメラの動作チェックのための撮影を行った。
ファインダー像が大きいためなのか、光学的に通ってきた光だからか、デジタル、特にミラーレスとはなんだか感覚が違った。 こうだったっけ? と戸惑いつつもファインダーで見える景色は かなり新鮮で、撮った結果で見るといつもと変わらない切り取り方だったのだけど、撮っている時にはいつもと全く違う世界を切り取っている感じがした。 メモリ・カード1枚で何百枚も撮れてしまうデジタルに対して、1枚1枚のフィルム代や現像代やらが頭をよぎって1カット毎の貴重さに緊張しつつ、36枚という少ない撮影枚数の制限に若干の不安を思いつつだったが、どうもフィルムなりの撮影ペースがあるようで、ひと歩きしたところで 36枚撮り1本がちょうど撮り終わった。
フィルムのスキャニングは、カメラ屋さんに「高画質」(1,300万画素)でお願いしたのだけど、結果は芳しくなく、結局は手元のフィルム・スキャナでスキャンすることに。 そもそもフィルムが古かったようで、カラー・バランスもネガの濃さもノリが悪く、スキャン画質についてはそれが原因だったのかもしれないけれど...。
Kodakのフィルムには略号があって、今回使ったEktar 100は確か「CX」だったと思ったが、メモもパトローネも残ってなく、調べてもその情報は見当たらず、箱はすでに捨ててしまったので... あれ? あった、やっぱり表記なし。 ちなみに使用期限は「11/2012」と。 で、「CX」だと 40年くらい前のフィルムが検索でヒットする。
Ektarは、映画フィルムの色彩技術をベースにした写真用フィルムで、高画質ネガ・フィルムの走りのような存在。 フジフィルムのRealaとどっちが早かったかな。 Ektarだと思うのだけど。 Ektarは、他にISO 1000があったと記憶している。 アメリカではEktar 125 (略号: CW)というのがあって、これが深みのあるいい色乗りだった。 残念ながら日本では発売されず、そのため写真店の焼き付け機にもデータが無いので、手焼きで追い込んでもらってもその色は出なかった。 1990年頃、気に入って随分と使ったけど、肝心なあの色は再現不可。
Ektar 100はアセテート・ベースらしい。 トリ・アセテート --- TACと言われるもの。 TACは、この以前にあったナイトレート・フィルムに代わって登場したもので、ナイトレートは発火しやすく、映画「ニュー・シネマ・パラダイス」で映画館が火事になってしまうのはこのため。 フジフィルムのウェブ・サイトによると、1952年にTACフィルムの量産体制が整ったとある。 しかしTACベースは加水分解してしまうという欠点があり、空気中の水分と反応して融けてしまう。 それが1980年代後半になってマイクロ・フィルムの劣化が顕著になったことで問題視されはじめ、対策として低温・低湿の保管環境や発生する酢酸ガスの吸着剤の研究、新たなフィルム・ベースの開発へと向かった。
そうして映画/写真フィルムのベースは、1990年代からPETがよく使われるようになった。 長期保存用の映画フィルム、フジ・フィルムのEterna RDSなどはPET。
久々にフィルムで撮ってみて、なんかいいぞと思ったのは ブレた写真だった。 数十分の1秒という瞬間ながら時間の流れを感じさせるというか、どこかレトロ感を醸すような、じんわり沁みる感じ。